「あの人がいないと業務が回らない」――この状態に心当たりがある経営者や管理職は多いはずです。特定の担当者だけが業務の進め方を知っている。引き継ぎ資料がなく、休みの日は誰も対応できない。これが「属人化」の典型的な姿です。
属人化は、短期的には「できる人に任せればいい」で回ります。しかし、組織が成長するほど、そのリスクは大きくなります。属人化解消は後回しにされがちですが、実は組織の持続的な成長に直結するテーマです。この記事では、属人化解消を進める具体的な5つのステップと、実際の成功事例を紹介します。
属人化が組織に与える3つのリスク
1. 業務が止まるリスク
最も分かりやすいリスクです。担当者の退職、異動、病欠、産休育休などで業務が回らなくなります。「その人がいないと分からない」状態は、組織にとって大きな脆弱性です。属人化解消が進んでいないと、1人の不在がチーム全体の停滞を招きます。
2. 品質がバラつくリスク
属人化した業務は、担当者の経験や勘に依存するため、品質が安定しません。同じ業務でも担当者によって成果物の質が大きく異なる。新人が入っても教え方が人によって違う。結果として顧客満足度のバラつきにもつながります。
3. 組織の成長が頭打ちになるリスク
属人化した状態では、業務のキャパシティが「できる人の稼働時間」で決まってしまいます。優秀な人材ほど業務が集中し、新しい挑戦に時間を割けなくなる。属人化解消を進めなければ、組織としてのスケーラビリティが失われます。
属人化を解消する5つのステップ
Step 1: 業務の棚卸し — 「誰が何を知っているか」を可視化する
属人化解消の出発点は、現状の業務を洗い出すことです。各メンバーが担当している業務を一覧にし、「その業務を他に誰ができるか」を確認します。
具体的には、以下の観点で業務マトリクスを作成します。
- 業務名と概要
- 現在の担当者
- 代替できる人がいるか(いる/いない/一部可能)
- 業務の発生頻度(日次/週次/月次/不定期)
- その業務が止まった場合の影響度(高/中/低)
この棚卸しだけで、「ここが危ない」というポイントが明確になります。全業務を一度に対応する必要はありません。まずは可視化することが大切です。
Step 2: 優先順位をつける — リスクとインパクトで判断する
棚卸しの結果をもとに、属人化解消の優先順位をつけます。判断基準は2つです。
- リスク: その業務が止まったときの影響度はどれくらいか
- 頻度: その業務はどれくらいの頻度で発生するか
影響度が高く、発生頻度も高い業務から着手するのが基本です。逆に、年に1回しか発生しない業務は後回しで構いません。一度にすべてを解消しようとせず、優先度の高いものから順にコツコツ進めることが、属人化解消を成功させる鍵です。
Step 3: マニュアル化 — 暗黙知を形式知に変える
優先度の高い業務から、手順書やマニュアルを作成します。ここで重要なのは、「完璧なマニュアル」を目指さないことです。
マニュアル作成のポイントは3つあります。
- 担当者本人が書く。 実際にやっている人が書くのが最も正確
- スクリーンショットや動画を活用する。 文章だけでなく、視覚的な情報を入れることで理解しやすくなる
- 「なぜそうするか」も書く。 手順だけでなく判断基準や背景も記録することで、イレギュラーケースにも対応できる
マニュアルは作って終わりではなく、実際に別のメンバーがそのマニュアルを見て業務を遂行できるかを確認するところまでがセットです。
Step 4: ツールを導入して仕組み化する
マニュアル化した業務のうち、繰り返し発生するものはツールやシステムで仕組み化できないかを検討します。
例えば以下のような仕組み化が考えられます。
- ワークフローツール: 承認フローや申請業務をシステム化し、手順を固定する
- チャットボット/FAQ: よくある問い合わせ対応を自動化する
- RPA/自動化ツール: 定型的なデータ入力や転記作業を自動化する
- プロジェクト管理ツール: タスクの進捗を可視化し、担当の偏りを防ぐ
ツール導入は手段であり目的ではありません。「この業務のどの部分を仕組み化するか」を明確にした上で、自社の規模とリテラシーに合ったツールを選択しましょう。DXの進め方については、DX推進の始め方で詳しく解説しています。
Step 5: 定着確認 — 属人化が再発していないかチェックする
属人化解消は一度やって終わりではなく、定期的な確認が必要です。半年に1回程度、Step 1の業務マトリクスを見直し、新たな属人化が発生していないかをチェックしましょう。
確認の観点は以下の通りです。
- 新しく入った業務がマニュアル化されているか
- マニュアルの内容が最新の業務フローと一致しているか
- 代替要員が実際に業務を遂行できるか(実地テスト)
- 特定のメンバーに業務が偏っていないか
この確認サイクルを回し続けることで、属人化解消は「一時的な施策」ではなく「組織の文化」として定着します。業務改善の生産性への影響については、労働生産性を上げる業務改善の進め方も参考にしてみてください。
属人化解消の成功事例
kotukotuが伴走支援したサービス業のクライアントの事例を紹介します。
この企業では、受発注業務を特定の担当者1名がExcelと電話で処理していました。発注先ごとのルールや例外対応が担当者の記憶に依存しており、その担当者が不在の日は受発注業務が事実上ストップする状態でした。
kotukotuが伴走に入り、まず受発注業務の全工程を棚卸し。担当者へのヒアリングを通じて、暗黙知になっていた判断基準や例外ルールをすべて洗い出しました。
次に、業務フローを整理した上で、発注管理ツールを導入。発注先ごとのルールをシステムに組み込み、手動での判断が必要な部分を最小化しました。並行して、他のメンバー2名がマニュアルを見ながら業務を遂行できるようトレーニングも実施しました。
結果として、属人化解消に加えて月40時間の工数削減を実現。受発注業務は3名で対応できる体制になり、担当者の休暇時も業務が止まることがなくなりました。属人化していた受発注業務を仕組み化・デジタル化したことで、業務の安定性と効率の両方が大きく改善した事例です。
属人化解消でよくある失敗と対策
失敗1: マニュアルを作っただけで終わる
マニュアルを作成しても、実際に使われなければ意味がありません。対策としては、マニュアル作成後に必ず「別のメンバーがマニュアルだけで業務を遂行する」テストを行うことです。テストで詰まった箇所がマニュアルの改善ポイントになります。
失敗2: 一気にすべてを変えようとする
属人化解消を全業務で同時に進めようとすると、現場の負担が大きくなり頓挫します。優先度の高い業務を2〜3個選び、小さく成功体験を作ることが大切です。成功事例が出ると、他の業務への展開もスムーズに進みます。
失敗3: 「自分の仕事を取られる」という抵抗
属人化している業務の担当者は、その業務が自分の価値だと感じていることがあります。属人化解消は「あなたの仕事を奪う」ことではなく、「あなたがより付加価値の高い業務に集中できるようにする」ことだと丁寧に伝えることが重要です。
属人化解消と評価制度の関係
属人化解消を組織に定着させるには、評価制度との連動が効果的です。「業務を標準化した」「ナレッジを共有した」「後任を育成した」といった行動を評価に組み込むことで、属人化解消がメンバーのインセンティブにつながります。
逆に、「自分だけができる業務」を抱え込むことが評価される仕組みだと、属人化解消は進みません。評価制度の設計と属人化解消は表裏一体のテーマです。人事評価制度の設計については、人事評価制度の作り方で詳しく解説しています。
まとめ:属人化解消は「仕組みで回す組織」への第一歩
属人化解消は、地道な作業の積み重ねです。一朝一夕で完了するものではありませんが、だからこそ早く着手した組織ほど差がつきます。
改めて、5つのステップを振り返ります。
- 業務の棚卸し — 誰が何を知っているかを可視化する
- 優先順位をつける — リスクと頻度で判断する
- マニュアル化 — 暗黙知を形式知に変える
- ツールで仕組み化 — 繰り返し業務をシステム化する
- 定着確認 — 再発していないか定期チェックする
属人化解消の本質は、「あの人がいなくても回る」ではなく、「誰もがより価値の高い仕事に集中できる組織をつくる」ことです。小さな一歩から始めてみてください。
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この記事を書いた人 — kotukotu編集部 kotukotuは「戦略と実行をつなぐ右腕型パートナー」として、中小企業の売上改善・コスト構造改革・DX推進を伴走支援しています。 kotukotuの伴走支援について詳しく見る